とうとう前回の記事から1カ月以上が経ってしまいました。9月は流れるように過ぎ去ってしまい、ろくろく紹介ゲームの攻略も進みませんでしたとさ。という訳で、今回は30年以上続く大型RPGタイトルの第1作目!
1987年12月18日発売で、発売元はスクウェア(現:スクウェアエニックス)。同時期の発売ソフトは『ロックマン』や『メタルギア』、『プロ野球ファミリースタジアム’87年度版』など。今でもシリーズが続いているタイトルが多く出た時期でもありますな。『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々』の大ヒットにより、にわかに注目ジャンルと化したRPGだったけど、後続するヒット作がなかった。もちろん『闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光』や『デジタルデビル物語 女神転生』のような佳作だけでなく『未来神話ジャーヴァス』のような後世に語り継がれるような問題作も存在するのだが、どれもそこそこヒットし話題になったが、大ヒット! というまでには至らなかった。
そこにさっそうと登場したのが、今回紹介する『ファイナルファンタジー』。当時は『ファミコン通信』(現:ファミ通)が比較的プッシュしていて、RPGに飢えていたキッズたちの期待を一身に集めていたのだ。翌年2月に『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ……』の発売が決まっていても「これを買う!」という友人も多かった記憶。まぁ具合よくクリスマスシーズンの発売だった……というのが大きいんだけど。ちなみに、この4日後には海外RPGの雄『ウィザードリィ 狂王の試練場』が発売され、本当に87~88年の年末年始はRPG時代の到来を予感させる期間だったのよね。
当時のスクウェアはPCゲームではアドベンチャーゲームやRPGでヒット作を何作も出していたグラフィックに定評のあるゲームメーカーだったのだけれども、ファミコンでは子供心にも正直「パッとしないゲームメーカー」だったのですわ。ファミコンでは『水晶の龍』や『とびだせ大作戦』のような佳作も出していたけれども、どちらかといえば『テグザー』(オリジナル版は傑作なんだけどね……)や『キングスナイト』、『アップルタウン物語』など、ありていに言えば面白くないゲームを多く出していて、ゲーム誌で目を惹いたタイトルでもスクウェアとわかると悩んでしまう……。そういうメーカーだったのですよ。『ハイウェイスター』などでファミコンでも技術力を発揮できるところを業界内外に示していたのだけど、それがメインユーザー層である小学生たちには届かなかった……という訳で業績は急速に悪化。次にリリースするソフトに全力をつぎ込み、それがヒットしなかったら会社を畳むという決意まで固めていたとか。
で、そのソフトというのが、今回紹介する『ファイナルファンタジー』。一部では「この最後のソフトに夢を託す」という意味でつけられた……などといわれていたけれども、実際は当時のスクウェアソフトの定番になっていた「アルファベットを重ねた略称になるタイトル」になるようにつけられただけで、深い意味はなかったらしい。そういえば、スクウェアはアルファベットを重ねるタイトルが好きだった。『磁界少年メット・マグ 』(MM)とか『ディープダンジョン 魔洞戦記』(DD)とか、それこそ直球でアルファベットが重なったタイトルの『JJ』とか。
開発はスクウェアAチーム。ディレクターは『中山美穂のときめきハイスクール』の開発にも関わった現・ミストウォーカーCEOの坂口博信氏。ゲームデザインはのちにサガシリーズなどで名を馳せることになる河津秋敏氏。シナリオは河津氏とアニメ脚本家や小説家など物語の専門家である寺田憲史氏。キャラクターデザインはタツノコプロ所属時代はタイムボカンシリーズなどのキャラクターデザインを担当し、独立してからは『吸血鬼ハンター"D"』や『エルリック・サーガ』シリーズの挿絵で人気を博したイラストレーターの天野喜孝氏、そしてプログラマーはイランの王族出身で"天才"との呼び声も高いナーシャ・ジベリ。特に本作ではスタッフクレジットの筆頭に書かれるほど、ナーシャ・ジベリの存在を推していたところもあったりするのだ。
地風火水……4つの力が衰え暴走した時代。コーネリア王国では王女セーラが騎士ガーランドにさらわれるという事件が勃発。この地にたどりついた4人の戦士は王の願いを聞き届けてガーランドを倒しセーラを救う。そしてクリスタルの輝きに導かれ、4人の戦士たちは王によって修復された橋を渡って未知の世界に旅立っていく。世界を、そして4つの力を正しい方向に導き、クリスタルの輝きを取り戻すために……。
というのが、大まかなストーリー。騎士と姫、盲目の魔法使い、街を支配する凶悪な海賊たち、エルフにドワーフ、宇宙にまで到達したが滅びた古代機械文明とその子孫たち……など、いわゆるハイファンタジーの王道ともいえた『ドラゴンクエスト』のさらに一歩上を進むような幻想的な世界を、パソコンゲームで培った技術とナーシャ・ジベリの高度なテクニックで実現した鮮やかなビジュアルで描いたのは、当時のファミコンキッズに衝撃を持って迎えられた。特に複雑に入り組んだ(当時のゲームとしては)リアリティのある海岸線や高速で飛行する飛空艇など、ファミコンでは『ドラゴンクエスト』どころかアクションゲームでもなかなか存在しないものだったのだ。
この成功によってスクウェアは自信を取り戻し、『ファイナルファンタジーⅡ』や『魔界塔士Sa・Ga』、『聖剣伝説』、『クロノトリガー』などRPGの名作を連発。名ゲームメーカーの道を歩み出すことに。そののちに映画や出版事業、ゲーム流通事業にまで手を伸ばすという多角経営に乗り出し、いろいろ大変なことになるのは別のお話。
システムとしてはオーソドックスなコマンドRPG……といいたいけれども、当時はコマンド式RPGの絶対数が少なかったため、これもまた「オーソドックス」とも言い難い状況。『ドラゴンクエスト』をはじめ、RPGの定番になっていたコマンドウィンドウを排除し、会話や調べるなどの基本コマンドはAボタンで統一。描画に全集中させるためにフィールド画面では会話ウィンドウが開かないようになっているのも特徴のひとつ(この仕様により、滑らかな海岸線や飛空艇の高速移動が実現できたのだ)。会話/調べるだけでなく、ステータス画面や隊列変更などもボタン一発で起動するというのはRPGのシステムの文法が定まっていないこの時代でも衝撃だったようで、後続ゲームにこのシステムを採用するゲームが多くなり、やがてデファクトスタンダードに。本作の本当に革新的なところって、もしかしたらこのショートカットボタンなのかもしれない。
戦闘は『ドラゴンクエスト』でも採用されていたコマンド式だけど、サイドビューを採用していて参加するキャラクターが表示されているのも革新的。しかも、行動するごとに剣を振ったり魔法を放ったりと細かくアクションをするのだ。もしかしたら当時のパソコンRPGではスタンダードな手法だったのかもしれないけど、そんなもの知らない当時のファミコンキッズには衝撃以外の何物でもなかったのだ。
また、職業によって能力に差があるというのも面白いポイントだった。ファミコンRPGに職業の概念が導入されたのは『未来神話ジャーヴァス』、パーティメンバーを各職から自由に選択してパーティを組めるようになったのは『ウルティマ 恐怖のエクソダス』が元祖(あくまでファミコンのRPGとしての「元祖」ね)なのだけど、そのような先駆者の存在を忘れさせるほどの衝撃を与えたのだ。しかも、クラスチェンジによって外見や能力が変化するというおまけつき(実は能力自体は変わらず、成長率や装備可能武器、修得可能魔法が変化するだけだったり)。これもまた衝撃だったのだ。ただ、クラスチェンジするとかわいくなくなっちゃうのが困りもの。頭身あがりすぎ! そのせいか、のちのシリーズにはクラスチェンジ後の頭身アップは継続されなかったり。
職業は全部で戦士(ナイト)、シーフ(忍者)、モンク、赤魔術士(赤魔導士)、黒魔術士(黒魔導士)、白魔術士(白魔導士)の6種類(カッコ内はクラスチェンジ後の職業)。この6種類の職業から自由に選んでパーティを組んで攻略していくのだけど、明らかに1人はいること前提でゲームバランスが設定されている節がある戦士、大器晩成型で最終的な攻撃力が異常なモンク、ほとんどの武器・防具が装備可能で魔法も使いこなせる赤魔術士など強力な職業がある一方、クラスチェンジ後もあまり強くならず中途半端な状態が続くシーフ、魔法自体は強力だけどシステム上連発できないため活躍の場面が限られている黒魔術士など、不遇な職業もあったりする。白魔術士? 入れておくに越したことはないよね。
魔法は攻撃的な黒魔法と回復や補助が得意な白魔法に分かれ、職業によって使えるものが違っていたり。MP制ではなくレベルごとの使用回数制なのは、本作が『ダンジョン&ドラゴンズ』の影響下にあるゲームだから……か。このシステムのせいで、黒魔法で敵をなぎ倒すよりも戦士やモンクを1人増やして殴ったほうが早い……という事態が発生してしまっているのだ。そのせいか、後続システムは『ドラゴンクエスト』などで採用されているMP制か、使用回数制でも大幅に数値が増えていたりする。
そうそう、このゲームの忘れちゃいけないポイントに「ワールドマップがいつでも確認できる」ということと、「隠しコマンドでミニゲームがプレイできる」ことがあったり。今でこそマップが確認できるというのは普通だし、おそらく当時のPC用RPGでも珍しくない要素なんだけど、ファミコン向けRPGではわりと珍しかったり。
ミニゲームはみんな大好き15パズル。船に乗ってAボタンを押しながらBボタンを55回押すというめちゃくちゃなコマンドで起動する隠し要素で、ナーシャ・ジベリがスタッフに内緒で仕込んだとか。一応メリットも存在し、パズルクリアするごとに100ギルが入手できる。少なくない額ではあるのだが、実は船を手に入れた直後の海上に出る敵を全滅させると、それと同じぐらい手に入るのだ。「ミスリルソード」を買うために40回クリアするという力業もないことはないのだけど、正直なところ効率はあまりよろしくない。コーネリアを拠点にして海上でレベル上げしたほうが手っ取り早いしね。
前述したとおり、本作は『ウィザードリィ』シリーズの、ひいてはその元ネタになった『ダンジョン&ドラゴンズ』シリーズの強い影響下にある。魔法システムだけでなく、登場するモンスター(機械系モンスター以外は全部『D&D』からの引用だ……という人もいるぐらい引用が多い)とか、武器や防具なんかに「まんまな引用」が多数見受けられるのだ(腕輪が鎧扱いなのも……)。これは本作だけの問題ではなく『ドルアーガの塔』や『ドラゴンクエスト』にもみられた現象で、それだけ当時の『D&D』がRPGのバイブル的存在として扱われていた……という証左といえるかもしれない。
有名どころの「引用モンスター」は、ピスコディーモンやマインド・フレイヤー、サハギン、オチュー、マリリス、ビホルダーあたりか。さらにいえばリッチやティアマットも『D&D』のサプリメントに記載されたデザインからの引用が強く見受けられるのだ。バビロニア神話という明確な元ネタがあるとはいえ、ティアマットが5本首の龍になったのって『D&D』からだしね。また、ビホルダーに関しては別作品で問題になったせいか、『ファイナルファンタジーⅡ』とまとめて発売しなおされた『ファイナルファンタジーⅠ・Ⅱ』ではデザインが変更となり、他機種移植版では名称自体が「イビルアイ」に変更されたり。マリリスとか一部モンスターは、ヤバいと気がついたのか海外版だと名称が違ったりする。ちなみに、これらの『D&D』からの引用に関しては、現在では「ほとんど問題ない」ということになっていたり。これは「system reference document」としてルールや設定、世界観など『D&D』のコアな部分がオープンソースとして公開されているからだ。なお、モンスターに関しては例外として11体がSRDに記載されていない「『D&D』オリジナルモンスター」として扱われていて、設定やデザインが一致するものは無許可で使用できない……ということになっている。当然ながら、ビホルダーもこのなかに含まれていたりするため、「同じデザインの方向性で同じ名称のビホルダー」は、ほかの作品で使うことはできない(「Beholder」という単語自体は「見る人」という意味の一般名詞なのでOK)。ただ、マインド・フレイヤーもSRDに記載されていないんだよね……どういう扱いになってるんだろ? 教えて、詳しい人!
土のカオス・リッチを倒すまでは一本道だけど、そこから自由度が格段に跳ね上がるのも本作の特徴。土のカオス撃破以降も残りのカオス討伐やクラスチェンジなどさまざまなイベントが存在するのだけど、その攻略順番はプレイヤーにゆだねられているのだ! 今でこそ珍しくないシステムだけど、当時……というか、SFC時代になっても家庭用ゲーム機のRPGではほとんど存在しなかったといえば「珍しさ」がわかるだろうか(このような自由度が大きな宣伝文句になったぐらいなんですよ)。
攻略順が自由になっているとはいえ、土のカオス撃破後は火のカオスに行く前に氷の洞窟に向かい、浮遊石を入手し飛空艇で移動範囲を広げるのが定番中の定番。昔は火の洞窟で「フレイムタン」を入手してから氷の洞窟に向かうのがセオリーだったのだけど、ゲームの解析が進むにつれて「属性効果ないじゃん!」となって氷の洞窟に直行するのが一般的な攻略順になったのだ。防具には属性耐性あるから、少しだけラクになるんだけどね。それ以上に「浮遊石」を取って行動の幅を広げたほうがラクになるのよ。「浮遊石」を守っているビホルダーが強いというのがネックではあるけど。
海底神殿で手に入れた「ロゼッタ石」を学者のウネに見せてルフェイン語を修得し、古代人ルフェイン人とのコミュニケーションを図り、転送装置を起動させて宇宙へ。そして風のカオス・ティアマットを倒しつつ原因を探ってボスの待つカオス神殿に。
最初のダンジョンと最後の決戦地が同じという演出はなかなかにニクいものがあり、そしてワクワクしたものです。各地で倒したボスとの再戦も今では普通だけれども、これもびっくりしたもんですわ。再生怪人は弱いのに、再戦ボスは強化されているというのもここで学んだり。まぁ所詮は再生なので、全力で殴ればすぐに倒せるんだけどね……。攻撃要員として戦力外だった白魔導士も、最終ダンジョンの途中で拾える「マサムネ」(最強武器。しかも全職業装備可能)を装備すれば赤魔導士ぐらいにはダメージ与えられるようになるしね。もっとも低レベルクリアを目指す場合は、白魔導士は回復に徹しないとキツいものがあるけど。ケアルガは重要なのだ。
エンディングはオープニング演出と同じように、特殊ウィンドウでのモノローグという形で表示。スタッフスクロールはなし。オープニングでやってるからね。この物語は「歪んだ歴史を正すために過去に飛んだ戦士。彼らの活躍によって歴史は正しい方向へと進み始めた。今まで冒険した世界は『架空の物語』として人々の心に刻まれている……」という、ちょっと特殊な作品であることも、ここで語られている。シリーズ1作目から実は超絶変化球を投げ込んできているんだよなぁ『ファイナルファンタジー』ってやつは! ちなみに、唐突に出てくる「ジェーン」なる人物は、コーネリア王妃。なんでここで語られるのかは知らん! わからん! 誰か教えて!
「ナーシャ・ジベリの天才的なプログラミング技術によって○○が実現!」みたいな話も多いのだけど、実装ミスが多いのも特徴だったりする本作。有名かつ意外と致命的なバグは「コテージを使ってセーブしたあとにゲームを中断すると魔法使用回数が回復しない」だろうか。ほかにも「黒魔法の「ストライ」「セーバー」「デスペル」の効果が実装されていない」とか「武器の特効・属性が実装されていない」なども有名な実装ミスだ。とはいえ、これほど革新的なビジュアルを実現したゲームにしては、進行不能になるバグやフリーズバグがほぼなし(「こんな操作、誰がするんだ!」という条件でのみ発生するSバグが近年発見されたけどね)というのは、このゲームのほめてもいいポイントだと思うのよね。誇張抜きで。
ただ、どうにもしがたい欠点も多い訳で。本作最大の欠点として「レベルアップがしにくい」というのがあったり。とにかく必要経験値に対してモンスターを倒したときに得られる経験値が少なすぎるのだ。そもそも、Lv1からLv2になるのに必要な経験値が40。序盤は1回の戦闘で得られる経験値が3~5ぐらいなので、最低でも10回は戦わないといけない計算だ。序盤は1~2回ぐらい戦闘したら宿屋に泊まらないとHP的にキツいため、連続で戦闘できないというのもストレスがたまるポイントとなる。
また、オートターゲットもなく、指定した敵が別の攻撃で死んでしまった場合は空振りになる。集団攻撃魔法も威力が低めで、修得できる街付近の敵は撃ち漏らしが多くなるというオマケつき。これは能力値の知性が魔法の威力に反映されていない(事実上、意味のない能力値)ということからくるものだとか。とかく、ビジュアルからくる派手さこそあれ、戦闘そのものに爽快感や達成感が薄いのだ。ただでさえ「作業」感が強くなるRPGの戦闘だが、そのなかでも屈指の作業を強いられるものだといえよう。
『ドラゴンクエスト』シリーズとは一線を画すビジュアルで衝撃を与えた本作。これによってスクウェア……というか『ファイナルファンタジー』シリーズは人気作となり、現在までナンバリングシリーズが15作を数えるまでになった。日本製ゲームでは最高峰のグラフィックと高いドラマ性が特徴のシリーズだけれども、第1作はドラマ性はむしろ低くあっさり風味。それもまた、ほかのシリーズ作品にはない味わいなのかもしれない。いろいろなハードにリファイン/リメイクして移植されているので、今でもプレイしやすいというのもありがたい限り。ただ、完全なオリジナルはファミコンでしかプレイできないというのは致し方ない部分もあるとはいえ、少し残念でならない。リメイク版のほうがいろいろと遊びやすいというのも事実だけどね。
という訳で、久しぶりの更新もここまで! 次は! 次こそはもっと早く更新したいところ! 次は「リメイクが発表されたあのアドベンチャーゲーム」か、あるいは「PCで人気を博したアドベンチャー」、それか「一時期、プレミアソフトというとこのタイトルをさしていたアドベンチャー」あたりにしたいところ! 予定は未定だけど。